「挫折」と「喪失」に向き合う物語……『When The Past Was Around』

思い出すほどに過去へ帰りたくなる、そんな苦しい思いや、別れを体験したことがあるだろうか? 『When The Past Was Around』は、失った大切な人との想い出をひとつひとつ取り出しながら、悲しみを乗り越えていく話だ。手書き風のグラフィックと、情感あふれるBGM。何よりも、プレイヤーの想像力を掻き立て委ねるストーリーに胸を打たれる。「喪失」と「再生」をテーマに描かれており、進めていくうちに主人公は自分だと錯覚するほど、プレイヤーは物語にのめり込む。

立ちはだかる「挫折」、いつか訪れる「喪失」に、我々はどう向き合えばいいのだろうか。

最愛の人との出会いと別れ

主人公は20代前半のエダという女性だ。彼女はバイオリニストだったが、挫折を味わっていた。そんな時に出会ったのが「オウル」だった。彼は彼女が失いつつあった音楽への情熱を取り戻すために、献身的にサポートしてくれた。エダも彼と音楽に囲まれて過ごす日々に楽しみを見出し始めていた。そんな時、オウルは突然病に倒れ、亡くなってしまう。本作にはセリフがないため、画面上のグラフィックやBGMからしか彼女の心情を読み取ることができない。しかし比翼のような二人は、永遠に別たれたのだ。

想い出が刻まれた品々と

プロローグは、エダの部屋から始まる。家の中には、彼と過ごした日々の想い出の品々、日常生活で使うものが並んでいる。部屋の中をポイント&クリックして、残された謎を解きながら鳥の羽を見つけていく。そうやって、ゲームは進む。パズルを解くためのヒントは部屋の中から見つけられるので、くまなくクリックしていこう。

プロローグの後、ストーリーはエダがオウルの墓前で悲しみに暮れているところから再開する。プロローグと同様に、各部屋を行き来しながらパズルを解いていこう。1つの章が終わると、オウルと過ごした楽しかった日々がインタラクティブコミックとして流れていく。そして、彼女の「日常の場所」から、最愛のオウルと過ごした「特別な場所」へとステージが進んでいく。喪失を「Past(過去)」として清算し、再び自分がやりたかった音楽に向き合おうとする彼女の姿に、あなたは何を想うだろう。

ふたりを繋いだバイオリンが奏でる音楽

バイオリンは『When The Past Around』におけるキーアイテムだ。その音色は本作でもフィーチャーされており、クラシック・フォーク調のどこか懐かしさを感じるBGMに昇華されている。日常に寄り添った牧歌的な音、心情をなぞった悲嘆的な音、……音楽を奏でるエダや、その側にいたオウルをなぞらえたような曲たちは、物語ないしプレイヤーに寄り添うように響く。その音楽は「TAIPEI GAME SHOW 2020 INDIE GAME AWARD」においてBest Audio賞を獲るなど、非常に評価が高い。

手書き風のグラフィックとセリフがないストーリーは、プレイヤーの想像に全てが委ねられる。つまり、プレイヤーの考えていることが「エダ」が考えていることになるといっても過言ではない。エダの記憶はパズルアクションを解くプレイヤーと共にある。エダは深い悲しみから立ち直り、前へ進もうとする。PVのヴィジュアルアート・サウンドで心を惹かれたのなら、自分の直観を信じていい作品だ。特にサウンドに関しては、公式YouTubeチャンネルでもサントラが配信されており、エンドロール曲である「When The Past Was Around」も試聴できる。気になったらまず音楽を聴いてみて、……ふたりの音楽が琴線に触れたなら、このゲームを手に取ってほしい。

いつか味わうであろう「挫折」、必ず訪れる「喪失」――それらと向き合うための鍵は、「エダ」が握っているのかも知れない。

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When The Past Was Around

タイトル: When The Past Was Around
ジャンル: アドベンチャー, カジュアル, インディー
開発元: Mojiken
パブリッシャー: Toge Productions
シリーズ: Toge Productions, Mojiken
リリース日: 2020年9月23日