美しい地獄を覗いてみよう。『LIMBO』

「地獄」と「美しい」という言葉は、正反対のものに思える。「地獄」という言葉には「おどろおどろしい」イメージがつきまとうし、「美しい」という言葉は「天国」の方がふさわしいのではないかとすら思う。しかし時として、「美しい」「地獄」は成立する。「地獄」のような不気味さとおぞましさ。それに反した「美しい」雰囲気を兼ね備えたものも時として存在する。今回はその両方を成立させている作品、――美しい地獄『LIMBO』を紹介しよう。

さくさく死んで、さくさく遊べる。

『LIMBO』はPlaydeadからリリースされた横スクロールアクションゲーム。ゲーム自体が敵を倒すことよりもパズルをクリアすることが主体となっており、プレイヤーは即死系の罠を回避しつつ、道を阻む仕掛けを解いていく。操作はとてもシンプルで、難しいアクションは要求されない。だが、道を進んだり敵をいなしたりする際に初見殺しの罠が多く、序盤はとにかく死にまくる。しかし『LIMBO』の素晴らしいところは、やり直す際のロード時間が全くないところだ。さくさく死んで、さくさく遊べる。ゲームに慣れた頃には「死ぬって何だっけ?」という脳に切り変わっていることだろう。

おぞましくも美しいアートワーク。

『LIMBO』の世界には色がない。森、湖水、機械、現代的な建造物、――様々なものがあっても、色がないモノクロームの世界なのだ。しかし平面的でもない。奥行きのあるモノクロームの景色が、延々と続いていく。このアートワークに触れると、ゲームに色彩など必要ないのではないか? とまで感じる。そして基本的にBGMも存在せず、環境音のみが響く。時にハエが飛び回る音が耳をくすぐり、時に蛍光灯の音がパキンと鳴る。このシンプルでありながら手を抜かないアートワークが、どこか現実じみていながらも非現実的な『LIMBO』の世界観を体現している。その世界観は、おぞましくも、美しい。

謎が謎を呼ぶ「LIMBO(辺獄)」

本作のストアページでは「運命に逆らい、妹を探して少年は LIMBO の世界に足を踏み入れる」とゲームについて説明されている。「LIMBO」とはカトリック教会において「幼児の辺獄」、すなわち「洗礼を受ける前に死んだため、原罪から解放されていない幼児が行きつく」とされている場所だ。ゲーム自体も、オープニングもなければエンディングも意味深な終わり方である。答えがプレイヤーの手に残らない。主人公の少年が「運命に逆らった」結果『LIMBO』の世界に踏み入れたのならば、果たして主人公は生きているのか、死んでいるのか。また、妹は本当に『LIMBO』の世界にいるのか――。謎が謎を呼ぶ世界観に、もしかすると考察の地獄へと引きずり込まれるかもしれない。

 

『LIMBO』は雰囲気死にゲーの最高峰といっても過言ではない。不気味さと美しさ、おぞましさと寂寥感が見事にマッチングしている。これだけでも雰囲気ゲー好きにはたまらないだろう。雰囲気に浸れる上に、考察のし甲斐もある。ステージの変遷などを観察して自分なりに世界観について考えてみるのもいいだろう。またプレイ時間も基本的に10時間未満でさくさく終わるので、「最近エフェクトの多いゲームに疲れている」人にもおすすめだ。そして何より最近疲れていて鬱を拗らせている自覚がある、筆者のようなキミ。キミのような人にこそね、『LIMBO』処方しておくからね。あとでやっておくように。

 

 

© 2022 Playdead. All rights reserved.
(Visited 292 times, 1 visits today)

LIMBO

タイトル: LIMBO
ジャンル: アクション, アドベンチャー, インディー
開発元: Playdead
パブリッシャー: Playdead
リリース日: 2011年8月3日